地下室のニート

中原岬ちゃんに出会いたい。

パシネッティ『生産理論』をトイレで読んだので「技術選択」を要約する。

Tex記法で数式入れられるらしいけど、めんどくさいので入れてないです。暇になったら追加するかもです。

ルイジ・L・パシネッティ『生産理論』の大まかな構成は次の通り。


第Ⅰ章 学説史小論

第Ⅱ章 取引表または投入産出表

第Ⅲ章 線形生産モデル

第Ⅳ章 レオンチェフ体系

第Ⅴ章 スラッファ体系

第Ⅴ章への付録 マルクスの「価値の生産価格への転形」の問題

第Ⅵ章 技術選択

第Ⅵ章への付録 線形計画,代替および価格体系の意味

第Ⅶ章 動学生産モデル序論

数学付録 行列代数入門


その中でも第Ⅵ章「技術選択」は特に面白い。というのは、この章は資本理論に対する主流派/非主流派(パシネッティ)のピントのズレ方をもっとも明確に述べている章であるからのように思われる。実際、訳者あとがきで菱山泉は次のように述べている。

第Ⅵ章「技術選択」は,『商品による商品の生産』の第3部(生産方法の切り替え)の構造を,行列代数を活用して厳密に定式化し,それのもつ広くかつ深い意味を余すところなく解明する意図をもつ.(中略)他のどの章にもまして新古典派の接近法との対照がもっとも 鮮明に浮き彫りにされている.(菱山泉)

もちろん、パシネッティによるレオンチェフ、スラッファ体系の整理と「転形のニュメレールの新たな提案」は一読以上に値するのものではあるのだけれども、学者でもないパンピーからすると、対立項を明確にしているこの第Ⅵ章「技術選択」は一段とわかりやすい構成になっている。

以下、第Ⅵ章「技術選択」を本文通りに沿って見ていく。

1多数の生産方法

各代替的技術はそれ自身の産業連関係数の行列と労働係数のベクトルで表される.これらすべての代替的技術の中からただ1つが現実に選択され,したがってそれのみが観察しうるのである.(Pasinetti)

1ページに満たない短い項ではあるが、この項では、第Ⅵ章の概要が示されている。以前の章では自明とされてきたこと、すなわち技術の選択過程を考察することを明確にしている。

2 収益性の基準

代替的な可能性のあいだで選択を行うためには,ある’選択基準’を採用しなければならない.この章を通して,選ばれる基準は’収益性’の基準であると仮定する.(Pasinetti)

’収益性’の基準が選択基準として採用されると仮定し、それを満たすために生産方法は以下のように選ばれる。 それらの制度的特徴がどのようなものであれ,ある所与の商品の生産に1つ以上の技術的方法が利用可能である場合,最小費用をもたらす方法が選択される.(Pasinetti)

当然ながら、最小の生産費用をもたらす生産方法を選択するために、生産手段の価格を知る必要がある。では、生産手段の価格はどのように決定されるだろうか。ここでスラッファの剰余を含む生産における生産方程式、かの有名な自由度1をもって動く体系を想起してみると良いだろう。
周知のとおり、方程式よりも未知数(n+2個の価格、利潤、賃金)のほうが多いn+1個の方程式を含んだこの連立方程式は体系を完結させるために、一つの未知数を定める必要がある。その中でも、経済的な意味を持つ未知数として利潤と賃金のいずれかを任意に求めることができる。 (パシネッティが第Ⅴ章で断っているように、当然ながら現実の経済体系で賃金率並びに利潤率を任意に決定できるわけではなく、ここから推論できるのは、この連立方程式が未知数を決定するのに十分ではなく、論理哲学論考よろしく語りえないところで未知数のうちの1つの決定因が求められなければならないということになるだろう)

この連立方程式が示すところによって、価格は賃金と利潤との関係、利潤率の各水準に依存するということがわかる。

価格体系を決定するには,技術係数のほかにまた,2つの分配変数,賃金率と利潤率のうちの1つを知らねばならない.(Pasinetti)

生産費を最小にする技術の選択は,経済体系のテクノロジーだけでなく,利潤と賃金のあいだの所得分配にも依存する.(Pasinetti)

3 非基礎的商品の技術選択

まず、パシネッティはより簡単な非基礎的商品の技術選択の場合を考える。 念のため、非基礎的商品の簡単な説明から始める。とはいえ、スラッファの『商品による商品の生産』の一文を引けば充分だろう。

ある商品が(直接的であるか間接的であるかを問わず)すべての商品の生産にはいるかどうか、これがその判定基準である。そのような商品を基礎的生産物とよび、そうでない商品を非基礎的生産物とよぼう。(Sraffa)

要するに、基礎的商品とはすべての商品の生産に必要な商品であり、対して非基礎的商品とは基礎的商品の生産のために必要とされないような商品を指す。当然ながら、観察の上で一層複雑になるのは基礎的商品の技術選択を考察するケースになる。なぜならば、基礎的商品の場合には、生産手段の価格にその価格が依存するのみならず、生産手段の価格が基礎的商品の価格に依存する、相互依存関係が存在するためである。

パシネッティはこの項で非基礎的商品の場合の技術選択を考察している。ここではパシネッティが3つの生産方法の列ベクトル(δ,ε,ζ)を想定し、技術の再切替えについて触れている点を強調したい。

利潤率が異なった水準に固定されるとするならば,選択は変わるだろう.別の言葉でいえば,代替的なすべての生産方法を所与とするとき,選択は利潤率の関数である.(Pasinetti)

利潤率と価格の関係は3つの生産方法曲線それぞれで異なる。ある利潤率の水準においては、方法εがより有利な方法であったりするし、また別の利潤率帯においては方法ζがより効率的な方法となったりもする。ここで想定される関数ではデカルト軸の実部を利潤率π、虚部を価格pと置き、また生産方法曲線ζとεの交点の利潤率の水準をπ1、π2と置く。(0<π1<π2<Π) ここで、利潤率がπ1以下の状態では生産方法ζの価格(pζ)が生産方法εの価格(pε)より小さく、利潤率π1からπ2のあいだにかけてはpζが小さく、利潤率π2からΠについてはpεが小さくなるような関数を考えてみる。

上述したように、技術選択にあたっては生産費を最小にするような生産方法を採用するので、ある利潤率πがπ<π1である場合には、生産方法ε、π1<π<π2である場合には生産方法ζ、π2<πである場合にはもう一度生産方法εが選択される。重要なのは、以上2つの生産方法が切り替わるタイミングの利潤率π1及びπ2が技術の切り替え点を表しているということである。この利潤率の水準において、2つの生産方法曲線は交わり、そしてこの交点上ではその利潤率の水準で同じ最小費用を持つ生産方法が2つ存在することになる。 ただし、非基礎的商品の技術選択が体系にもたらす意義は限定されている。この選択の効果というのは、非基礎的商品の定義的にその商品の価格変動のみにしか影響を及ぼさないためである。

パシネッティは非基礎的商品の考察については、3つの列ベクトルを想定し、異なった生産方法が共存しうること、またニュメレールの変更によって切り替え点は不変であることを簡単に示した後により複雑な基礎的商品の技術選択の考察に移る。

4 基礎的商品の技術選択

先に見たように、基礎的商品の生産方法は、その価格が生産手段と生産物との間の相互依存的な影響を受ける複雑な場合を考慮しなければならない。パシネッティはここでも基礎的商品hを生産するα、β、γの3つの生産方法を想定する。ここで、方法γの生産方法が現実に採用されており、すべての価格と賃金率が方法γに対応するものであると仮定する。これら方程式によって、3つそれぞれの生産方法の均衡価格を比較することは可能である。ただし、非基礎的商品の場合と異なり、基礎的商品の生産の場合は基礎的商品の価格pが価格体系の残りの部分によって、既に決定されてしまってはおらず、換言すれば、右辺の変数の大きさがすべて、すでに与えられているような単純な状態にはない。価格pの変化は他のすべての商品の価格の形成に関係しているため、右辺の変数(価格といった)の大きさもその変化に応じて修正される。

そしてこのように,無限ではあるが収束する過程をへて,まったく新しい価格体系に向かうであろう.したがって基礎的商品の場合には,それら自体すべての商品の生産に使用されるから,単一の産業における生産方法の変更は全経済体系にわたって効果を及ぼす.(Pasinetti)

基礎的商品の生産方法の変更は経済体系の全体に影響を及ぼし、もはや非基礎的商品の場合でみたような、生産価格の単純比較によって生産方法の選択を行うことは不可能となる。それがために、経済体系全体を考慮した観察が求められる。

基礎的商品における技術選択の場合を観察するために、パシネッティは利潤率の関数として賃金率を表した所得分配の関係でそれぞれの生産方法曲線を描画する。(そしてそのために、特定商品をニュメレールとして使用し、価格pを1で置き換え、1で表した多項式を得ている。)

利潤率と賃金率のグラフで見た場合、生産方法の選択基準は3項でみたような最小費用をもたらす技術体系だとは言えなくなる。

経済体系全体のレベルでは,与えられた任意の利潤率のもとで最高の賃金率,あるいは――同じことであるが――与えられた任意の賃金率のもとで最高の利潤率を与える技術の選択につながる基準として出てくる.(Pasinetti)

非基礎的商品の場合では、与えられた利潤率のもとでより最小の価格をもたらす生産方法が選択されたのに対して、基礎的商品の場合は、与えられた利潤率の元で最高となる賃金率、または与えられた賃金率のもとで最高の利潤率をもたらすものが選択される。同様にここでも生産方法それぞれの交点を技術の切り替え点と置くことができる。また、基礎的商品の比較においては、グラフのより外側にある曲線(すなわちすべての生産方法曲線に対する包絡線)が経済体系を導く一点であり、’技術的フロンティア’と呼ばれる。

それは,’利潤と賃金のあいだの可能な所得分配にかんする技術的フロンティア’,または所得分配の可能性にかんする技術的フロンティア,あるいはいっそう簡単にして,技術的フロンティアと呼んでいいものを表している.(Pasinetti)

この技術的フロンティアは以下の性質を持つとされる。
(ⅰ)技術α、βの切り替え点において、各商品は同一の価格をもつ。
(ⅱ)ある利潤率の水準で一方が他に比べて有利であれば、その技術の価格はより小さい価格をもたらす。
(ⅲ)賃金率と利潤率の関係の比較はニュメレールから独立であり、ニュメレールに何が選択されるかに関わらず、切り替え点や技術の選択順序は不変である。
(ⅳ)技術的フロンティアは利潤率が増加するにつれて厳密に減少する。

5 一般的な技術選択

今までは、一定数の生産方法の中からどのような技術が選択されるかについて観察を行ってきたが、ここでパシネッティは利用可能な生産方法の個数になんの制約もつけない場合を想定する。

その場合も同様に、選択される生産方法曲線を繋いだ包絡線となる技術的フロンティアが表され、前述した技術的フロンティアの性質が上記条件でも満たされることを説明しているのだけれども、省略。

6 「非代替」

いよいよここで、伝統的経済理論との対比が語られる。

この関連で該当するとわかっているただ1つの経済変数は利潤率である.実際,すでに理解したように,いちど技術が与えられ,利潤率が固定されると,価格構造は決定される.(Pasinetti)

生産の理論で見た時に、どのような技術が選択されるかを決める変数は利潤率である。伝統的理論が見るように需要の構成や期初の賦存量は何ら関係がない。

利潤率を所与とすれば,技術が決定されることはわかっている.こうしてすべての価格が,需要の構成および労働者1人あたりの総資本量から独立に,決定されるものであることがわかる.いいかえれば需要構成の変化は投入物のあいだにいかなる代替も引き起こさない.(Pasinetti)

つまり、どのような財に需要が集中しており、その財が資本集約的であるか否かなどは(少なくともこの生産理論において)技術の切り替えに影響を及ぼさない。 この結果はいま’非代替定理’という(パシネッティいわくやや大げさな)名前で呼ばれる。

さて、パシネッティによればこの「非代替定理」という名前は、(それはいわば市場の「不完全性」がしばしば特殊ケースとして強調されるように)誤解を生みかねないという。なぜならそれは、「非代替」はあくまで異常か極端な場合であり、「代替」が通常の場合として受け取られないからである。

しかし、伝統的理論に従って需要構成の変化が技術選択に影響を与えるとして、その投入比率が変化する方向は、パシネッティによれば先験的にはなにもいえない。投入比率の変化は技術の変化、価格の変化に対し明確な関係をつけることができない。技術の選択と投入比率の選択は全く異なるものである。

換言すれば,(結合生産のない,係数不変の特殊な場合だけでなく)一般に,「代替」にかんする伝統的な観点や役に立たないか不適切なものになる.代替の観念は投入比率の変化と結び付けられてきたが,後者はどのような理論的役割も果たさない.(Pasinetti)

7 技術の再切替えと伝統的な資本理論

伝統的理論によれば、利潤率と労働者一人当たりの生産物は相反関係が存在するとされる。(ここでは、特にヴィクセルの『国民経済学講義』、産出/労働比率の増加,資本/産出比率の増加,賃金率の増加,および利潤率の低下が結び付けられた限界理論が想定されている) しかし、今まで見てきた生産方法曲線を振り返ることによってこれが当てはまらないことがわかる。基礎的商品における生産方法の比較を思い出したい。労働者一人当たりの純生産物は利潤率が0の場合の賃金率、つまり縦軸の切片から読み解くことができる。そして選択される生産方法は与えられた利潤率の元で最高となる賃金率、または与えられた賃金率のもとで最高の利潤率をもたらすかどうかが基準となる。その場合、π1における技術の再切替えでは、労働者一人当たりの純生産物がより小さい生産方法が利潤率の上昇により選択され、逆にπ2における再切替えでは労働者一人当たりの純生産物がより大きい生産方法が利潤率の上昇により選択される。ここには、利潤率と資本量、利潤率と一人当たり純産出量のあいだの単調的な関係は存在しない。

本当に注目すべき一般的結論は,近年にいたるまで考えられていたこととは逆に,利潤率が変化するとき,資本・労働比率および純産出・労働比率の変化の方向について,先験的にはなにもいえないということである.(Pasinetti)

以上の事実は強調するに足るものである。少なくとも、利潤と賃金が、限界生産力によって決定されると考えるのあれば、それは明確に否定される。

資本と労働という「要素」を純生産物に関係づけるひとつの生産関数によって,現存する技術を総合的に表現できるとする考えを,永久に破壊する.(Pasinetti)

異種の資本に対して,その増加を「限界生産物」の低下に系統的に結びつけることができるような,単一の等価な「量」を構築することは不可能である.(Pasinetti)

8 計算式にかんする誤った考え

若干おまけ感があるけれども、多分重要。ここではソローがいうところの利潤率πが批判されている。ソローの利潤率(利子率)の分母は今日の消費の抑制とも呼べるし、分子は将来の消費の増加と呼ぶことができる。しかし、ここでは示されているのは利子率とは何かという定義であり、利子率の説明では全くない。ソローがいうところの「貯蓄の社会的収益率」は利潤率を表すもうひとつの逐語的表現に過ぎないことが辛辣に述べられている。

9 結 語

ケインズの分析によってわれわれはしばらくの間,伝統的理論が貯蓄の調整者としての利子率に与えた重要性が誇大であることを気付かせていた.もうひとつの鋭い警告がいま出された.利潤率(および均衡においては市場利子率)に対し,投資の資本集約度の調整者として与えられる重要性もまた,誇張されていることが示された.(Pasinetti)

結論として、資本と労働で表した生産関数とか資本の限界生産力とか窓から捨てよう!


参考文献:
L.L.パシネッティ『生産理論 ポストケインジアンの経済学』,菱山泉・山下博・山谷恵俊・瀬地山敏共訳,東洋経済新報社,1979年
P.スラッファ『商品による商品の生産』菱山泉訳,有斐閣,1962年(復刊1978年,山下博と共訳)